ハイドン/クラヴィアトリオの部屋

ハイドン研究室

クラヴィア3重奏曲の部屋

BGM/Haydn Clavier Trio No.5 (Hob.XV:1) 2nd mov.

ハイドンのクラヴィア3重奏曲は、かなりはっきりと、初期・中期・後期に別れています。初期は、ハイドンの若い頃、年代としては1760年頃、モルツィン伯爵のもとに出入りしていた時期の作品です。タイトルはディベルティメントとなっていて、この時は、クラヴィアのパートは明らかにチェンバロを想定して書かれています。そして、約20年ほどのブランクの後、エステルハージ侯爵の時代の後半に書かれた作品群が中期、その後の、ロンドンの時代に書かれた作品群が後期、という事となります。中期と後期は、年代的には離れている訳ではありませんが、曲を演奏するシチュエーションが明確に違っていますので、曲調自体も変化しています。ロンドンの時代の作品が、演奏効果としても高いものを目指していて、クラヴィアのパートが明らかにピアノフォルテ用に書かれているのは、クラヴィアソナタの場合と同様です。

全体の曲数は、ホーボーケンの番号が41番まであり、その他の補遺番号や番外などが6曲あります。41番までのうち、1番から31番までは19世紀のブライトコップフ社のクラヴィア作品全集に取り上げられた番号をそのまま用いています。偽作と判明した2曲(3番と4番)も含まれていますが、ほぼ年代順に並べられています。32番以降は、その選に漏れた作品や、後に判明した作品が追加されていて、ほとんどが最初期の作品となります。また、33番と補遺番号の1曲(Hob.XV:D1)は、当時の目録に掲載されているものの作品自体は消失している作品です。このページでは、1番から41番までと、補遺番号など6曲、合計47曲のうち、消失作品2曲を除く45曲について、取り上げる事にいたします。上記の2曲の偽作も含まれておりますし、他に真偽不明の曲もあります。

クラヴィア3重奏曲は、ヴァイオリンとチェロの伴奏付きのクラヴィアソナタと呼ばれる事もあり、もともとは、厳密な意味でクラヴィアソナタと区別はされていなかったようです。実際、初期の作品の中にはクラヴィアソナタと同じ曲の作品がいくつかあります。どちらかが編曲と考える事になるのでしょうが、最初からヴァイオリンとチェロがあっても無くても良いように書かれていたのではないかと思われる作品もあります。この編曲の問題は、作品の真偽を判断するのに、やっかいな問題を与えています。詳しくは、下記の番号のところでもう一度書きます。

さて、私の用いました資料は、専ら入手しやすいヘンレ版の演奏譜に頼っていますが、新全集版とは多少収録曲が異なっているようです。参考資料は、ボザールトリオによる全曲版のCDで、ロビンス・ランドン校訂による原典版を演奏しています。これは、出版社こそ異なるものの、クリスタ・ランドン校訂のウィーン原典版クラヴィアソナタ全集と対をなすものです。資料がCDですので、細かい部分の異同に関しましては、耳に頼る形となっていますので、正確とは言えません事を予めお断わりいたします。


目 次


表の見方について

番号

クラヴィア3重奏曲の番号の問題は、中期・後期につきましては、ほぼ曲数、曲順共に確定出来るところまで、研究が進んでいます。中期の作品はホーボーケン番号の5番から17番までの13曲、後期は18番から32番までの15曲となります。この合計28曲につきましては、若干の順番の入れ替えがありますが、ほとんど作曲順通りに並んでいます。1曲だけ大きく異なるのは、32番が実際は17番と18番の間の作品であることです。

残りの17曲のうち、偽作と判定された2曲以外の15曲が初期の作品となりますが、問題があるのは専らこれら初期の作品の真偽判定の部分です。現在でも真偽未確定の曲がかなりあります。ただしクラヴィア3重奏曲の場合は、ハイドン以外の人物の作品であるというのではありません。問題は、他ジャンル(クラヴィアソナタ・バリトン3重奏曲・クラヴィア4重奏曲等)の作品と同じ曲と判断出来るものがある事です。単純に考えればどちらかが編曲という事になりますが、ハイドン以外の人物の手による編曲なのかどうか、クラヴィア3重奏曲の方がオリジナルで、他のジャンルの方が編曲であるのかどうか、それとも最初からヴァイオリンとチェロがあっても無くても良いという前提で書かれたクラヴィアソナタなのか、という疑問があります。判定を下すのがかなり困難な状況になっている事はご理解いただけると思います。ロビンス・ランドンの原典版では、ウィーン原典版のクラヴィアソナタと同じく、消失作品も含めた45曲全部を推定年代順に並べて新たな番号を付けています。しかし、ハイドン新全集版では、5曲を単なる編曲として除外していて、消失作品2曲も数には入れず、全38曲としています。編曲とされた5曲のうち、ブライトコップフの旧全集に取り上げられた曲や、原曲が消失していてクラヴィア3重奏曲版しか現存していない曲を、参考の付録として掲載しています。

ここでは、多少問題があるとは思うのですが、ロビンス・ランドンの原典版の番号順に従って掲載する事にいたします。偽作の2曲は適当な位置に挿入いたします。また、クラヴィアソナタと同様、番号の前に以下の記号を付けます。

 

◎:自筆譜が残されているなど、問題なく真作と判断出来る曲

○:はっきりした証拠は無いものの、真作に疑いが無いと判断出来る曲

△:新全集版で、編曲として真作から外している曲

×:新全集版では偽作として掲載されていない曲

 

番号は、まず、ロビンス・ランドンの原典版の番号、次にホーボーケンの番号を記入し、その後に調性を記入いたしました。

形式

ここでも、原則としましては、大ソナタ、中ソナタ、小ソナタ、バロックソナタという分類にいたしますが、あまりにも小じんまりした形式の場合、特にソナチネ形式と書く事にいたします。

作曲年・出版年

作曲年を決める事が出来ない曲が含まれますので、原則として資料で確定できる曲は括弧無し、ほぼ間違いなく推定出来る曲は[括弧]付きで記入し、単なる推測の曲は(括弧)、全く不明の曲はブランクといたします。また、出版年が判明している曲は、そちらも記入いたしました。

区分

こちらは、曲調から判断いたしましたので、必ずしも年代的には一致しないケースが含まれます。

その他

その他の項目に付きましては、交響曲の部屋の説明を参照して下さい。