クラヴィア3重奏曲の部屋第2室

BGM/Haydn Clavier Trio No.28(Hob.XV:16) D-dur 3rd mov.

×番外Hob.XV:3ハ長調

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Adagio
Allegro
大ソナタ
2 2/4
3/8
2/4
Andante
Adagio ma non troppo
Allegro molto

ロンド形式
作曲年 出版年 区分 おすすめランク 特徴
1785 偽作
2楽章はテンポ、拍子の変更があるが、やり過ぎて収拾がつかないように感じる。
注釈

Hob.XV:3〜5の3曲は1785年にロンドンのフォースター社から出版されていますが、出版の経緯につきましては、あまり詳しくわかっていません。1780年代に入るとクラヴィア3重奏曲というジャンルが大人気となり、編曲も含めて多くの楽譜が出版されるようになっている背景があり、ハイドンの元にも作曲の依頼が舞い込むようになっていますので、その一環と考えるのが順当でしょう。しかし、当時のハイドンに余分な作曲をするだけの時間が無かったのも事実で、旧作の編曲で済ます等の措置が取られたりもしていました。そんな状況ですので、どうも出版社側が正規の手段を経ずに短絡的に出版した可能性が感じられます。

3曲のうち、前の2曲(ホーボーケン作品番号の3番と4番)が実際はハイドンの弟子に当たるプレイエルの作品である事が判明しています。作曲された時期は不明ですが、いろいろと考え合わせますと、プレイエルがハイドンの元で勉強していた時期の習作と判断出来ます。作品の出来としては、それほど悪くない部分もあるのですが、プレイエルの円熟期の作品に比べればかなり未熟に感じます。

おそらく、ハイドンの手元に譜面があったと考えて良いでしょう。出版社側が正規の手続きを経ずに楽譜を入手する手段は、それなりにあったと考えられます。手っ取り早いのが、ハイドンの使っていた写譜屋を買収するという手段ですが、人を使って「勉強のために、作品を筆写させてほしい」と頼ませる事だって出来ます。当然ながら、そういう事をしたからと言って、当時の慣習や事情で考える限り違法性は無いと言って良いでしょう。しかしながら、このあたりの事実関係につきましては、はっきりと確認出来る資料は何も無いと言うのが現状です。

作品は、テーマや各部分の対比についてあまり考慮されていなく(テーマ同士が必要以上に似すぎていたり、1つの楽章としてまとめるには程度を超えて違い過ぎていたりしています)、構成的なまとまりが欠けているように感じます。この部分が習作ではないかと考える根拠となっています。


×番外Hob.XV:4ヘ長調

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Allegro con brio 中ソナタ
リピート無し
2 6/8 Andante 単純3部形式
ヘ長調で半終止し、そのまま3楽章へ続く。
3 2/4 Allegro C,d ロンド形式
作曲年 出版年 区分 おすすめランク 特徴
1785 偽作
これといった特徴を感じない作品。小節数で言う限りは比較的大きな作品だが、印象はこじんまりしている。

○第18番Hob.XV:5ト長調

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4 Adagio non tanto バロックソナタ
2 4/4 Allegro 中ソナタ
3 3/4 Allegro 変奏曲
ただし変奏は1つしかない。曲調はメヌエット
作曲年 出版年 区分 おすすめランク 特徴
1784 1785 注釈参照
注釈

この曲が前記フォースター社から出版された3作のうち、唯一の真作となります。ただし、本来はヴァイオリンとクラヴィアの2重奏曲で、チェロパートは別人の手で加えられたものとして、真作性を疑問視する説もあります。確かにチェロの扱いが中途半端のような感じもいたしますが、真作性を疑うほどではないと感じています。ゆっくりした楽章から始まる様式は、初期にはかなりあるものの、1780年代以降の作品では非常に珍しい形です。2楽章、3楽章がいかにも楽しげな音楽で印象に残ります。


◎第19番Hob.XV:6ヘ長調

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Vivace 中ソナタ
2 3/4 Tempo di Menuetto 複合3部形式
通常のメヌエットよりも規模が大きく、メロディアスな印象
作曲年 出版年 区分 おすすめランク 特徴
1784 1786 第1楽章の提示部で、第2主題の提示前に第1主題が属調でダミーとして登場する形が目を引く。第2楽章は、メヌエットと書かれている割りには緩叙楽章的な雰囲気を持っている。複数の楽章の内容を折衷する試みであると思われる。
注釈

Hob.XV:6〜8の3曲は1786年にアルタリア社より出版されています。基本的に2楽章構成(2曲目は第2、第3楽章が繋がっている形)になっています。それを音楽的に纏める意味で、後ろの楽章にいろいろな工夫が見られます。


◎第20番Hob.XV:7ニ長調

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/4 Andante 変奏曲形式
2 6/8 Andante シチリアーノ風
2部形式だが、小ソナタの提示部と展開部の形に見える。
第3楽章へ切れ目無く続く。
3 2/4 Allegro assai d,Es,H カプリチォ
作曲年 出版年 区分 おすすめランク 特徴
1784 1786 3楽章の様式(特に転調)が斬新。まともなソナタ様式の楽章が1つも無い事も目を引く。

◎第21番Hob.XV:8変ロ長調

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/2 Allegro moderato 中ソナタ
2 3/4 Tempo di Menuetto  F,b 複合3部形式とロンド形式の折衷
作曲年 出版年 区分 おすすめランク 特徴
1785 1786 かなり規模の大きな作品。
チェロの動きの独自性が目立ちはじめている。

◎第22番Hob.XV:9イ長調

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4 Adagio 中ソナタ
2 2/2 Vivace 中ソナタ
作曲年 出版年 区分 おすすめランク 特徴
1785 1786 4 ヴァイオリンとチェロが、デュエットで主要メロディを奏でる形が目立つ。第2楽章の第2主題の後半部分に第1主題が出てくるのが面白い。
注釈

Hob.XV:9,10の2曲は、前室で登場した編曲作品であるHob.XV:2と合わせて3曲セットとして、1786年にフォースター社より出版されています。曲順は9,2,10の順になっています。このあたりから、3つの楽器の独自性が目立ってきて、古典派音楽としての完成期にさしかかっている事が、はっきりと見て取れます。


◎第23番Hob.XV:10変ホ長調

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/2 Allegro moderato Es 大ソナタ
2 6/8 Presto Es 複合3部形式
作曲年 出版年 区分 おすすめランク 特徴
1785 1786 スケールの大きさを感じさせる傑作

◎第24番Hob.XV:11変ホ長調

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/2 Allegro moderato Es 大ソナタ
展開部の後半にヘ長調によるダミーの第1主題の再現があり、その分再現部が短くなっている。
2 3/4 Tempo di Menuetto Es As 複合3部形式
第3部が第1部に比べてかなり変奏されている。
作曲年 出版年 区分 おすすめランク 特徴
1788 1789 第1楽章の再現部の特異な構成、第2楽章のかなり長さのあるコーダが目を引く。
注釈

Hob.XV:11〜13の3曲は、1789年にウィーンのアルタリア社より出版されました。この作品から、ハイドンは作曲にハンマークラヴィア(初期のピアノ)を使用していた事が判明しています。その為か音楽的な幅が一層広がったように見えます。また、3曲中2曲が短調と言うのは極めて異例の事です。


◎第25番Hob.XV:12ホ短調

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/2 Allegro moderato 大ソナタ
2 6/8 Andante 中ソナタ
3 2/4 Presto  e,cis ロンド形式
作曲年 出版年 区分 おすすめランク 特徴
1789 1789 じっくり聞かせる、比較的規模の大きな作品。曲の調性は短調だが、全体的な雰囲気は明るい。

◎第26番Hob.XV:13ハ短調

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/4 Andante 2つの主題を持つ変奏曲
2 3/4 Allegro spiritoso 大ソナタ
作曲年 出版年 区分 おすすめランク 特徴
1789 1789 第1楽章はお得意の変奏曲。第2楽章はかなり大規模のソナタで、特にコーダがかなりの長さを持ち、音楽的にも充実している。

◎第27番Hob.XV:14変イ長調

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/4 Allegro moderato As Es 中ソナタ
2 3/4 Adagio 複合3部形式
ただし、中間部分は主部の変奏になっている。切れ目無く次の楽章に入る。
3 2/4 Vivace As Es 中ソナタ
作曲年 出版年 区分 おすすめランク 特徴
1790 1790 注釈参照
注釈

この曲はいろいろな意味で興味深い作品です。出版は1790年アルタリア社からで、この1曲だけ単独になっているのが、あまり例の無い形で、目を引きます。曲調は、特にヴァイオリンとクラヴィアのパートが、かなり独奏的に扱われていて、2重協奏曲のような感じです。

形式的にも変わっていて、第1楽章、第3楽章とも、本来第2主題が現れるべき場所で第1主題が出てきます。しかし、単一主題のソナタではなく、その後に第2主題と考えられるフレーズが登場します。第1楽章の場合は、この第2主題が再現部では登場しないのが大きな特徴となっていますし、第1主題も提示部と同じく2度出てくるのですが、1回目の再現がロ長調というとんでもない調に設定されています。第3楽章では、2度の第1主題の再現の間に展開が始まってしまいますので、2度再現部があるような印象になります。第2楽章は普通の3部形式に見えますが、中間部分が主部のテーマの短調による変奏になっているだけでなく、クラヴィアパートが協奏曲のソロような音形に終始しています。

作曲技法上注目すべき作品と言う事が出来るでしょう。


◎第28番Hob.XV:16ニ長調

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/2 Allegro 大ソナタ
2 6/8 Andantino piu tosto Allegretto  2部形式
ソナタの提示部と展開部の関係になっている
3 2/4 Vivace assai d,h,G ABACADAコーダという形の拡大されたロンド形式
作曲年 出版年 区分 おすすめランク 特徴
1790 1790 円熟した落ち付いた作風になっている。
注釈

Hob.XV:15,16,17の3曲は、1790年にロンドンのブラント社から出版されています。他の作品と異なっている点は、ヴァイオリンではなく、フルートが指定されていることです。しかし、ヴァイオリンで代用しても可能とわざわざ明記されています。曲調を見る限り、フルートでなければならない必然性は感じませんので、フルートというのは出版社側の要求であり、ハイドン自身は、若干の奏法上の相違点以外の部分では、ヴァイオリンとほとんど区別することなく書いているように思われます。特に、2曲目のト長調は、むしろヴァイオリンの方が良さそうな曲調となっています。


◎第29番Hob.XV:15ト長調

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/2 Allegro 大ソナタ
2 6/8 Andante 複合3部形式
変奏曲の要素もある
3 2/2 Allegro moderato  G,g 自由なロンド形式
作曲年 出版年 区分 おすすめランク 特徴
1790 1790 第1楽章の冒頭に導入句が置かれているが、ほぼ同時代のアポーニー4重奏曲を思い起こさせる。

◎第30番Hob.XV:17ヘ長調

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Allegro 大ソナタ
再現部の第1主題が極めて短く扱われている。
2 3/4 Tempo di Menuetto 中ソナタ
作曲年 出版年 区分 おすすめランク 特徴
1790 1790 旋律的な魅力が少ないが、大胆な転調を持ち、かなりスケールの大きな作品となっている。