ハイドン研究室

クラヴィアソナタの部屋

BGM/Haydn Clavier Sonata No.22(37) 3rd mov.

クラヴィアという言葉は、ピアノやチェンバロ等、弦を用いた鍵盤楽器の総称として使われています。ハイドンの鍵盤楽器独奏用の作品は、初期はチェンバロ、後年はピアノフォルテ用に書かれていて、その間の時代には、どちらでも良いという事が明記されている作品もあることは、資料で確認出来ます。ソナタという名称もハイドンの中期に、いわゆる古典派ソナタ(バロックのソナタではなく)を意味するように定着した名前で、ハイドンの初期には、パルティータもしくはディベルティメントの名称が使われています。しかしともかく、現在では、ハイドンの一連の作品を、クラヴィアソナタと呼び習わす事が定着しています。

さて、こちらの資料は、ウィーン原典版(音楽之友社刊)とハイドン新全集版に基づくヘンレ版、そして参考資料として旧全集版に基づくリー版を用い、関連する58曲(偽作・真偽未確定作・一部分消失作を含む)について、データをまとめています。


目 次


表の見方について

番号

クラヴィアソナタの番号はかなり混乱した状態にあります。出来る限りわかり易く説明を試みてみましょう。

先ず、前提として次の事を確認しておく必要があります。つまり、ハイドンのクラヴィアソナタは、大別して3つの種類が考えらるという点です。1つ目は、クラヴィアを教える生徒の教材として書かれたもの。2つ目は、一般のアマチュア演奏家を対象に出版する事を前提に書かれたもの。3つ目は、ある特定の優れた演奏家が演奏会で演奏する為に書かれたものです。やはり、想定する演奏者が異なれば、作品自体も異なっていると考える方が当然で、本来この3種を1つのカテゴリーとして処理する事は無理があるかも知れません。しかし、3つに分けて分類するのはなおさら無理があることも事実で、結果として、全部を纏めて考える事が一般的になっています。

やはり問題なのは、生徒の教材として書かれた一連の作品です。生徒と言っても、普通のアマチュアのレベルをはるかに超えた力量の秀才もいたかも知れませんし、凡庸な生徒も、小さな子どももいた事でしょう。才能のある生徒のための作品ならば、音楽的にも十分に優れた作品になりましょうが、初心のあるいは凡庸な生徒のための作品は、その分だけ単純で、音楽的に面白いとは言えない作品も含まれるはずで、ハイドン自身後世に残すべき作品とは考えていなかったと思われます。実際、ハイドンの晩年に、作曲者本人が編集にかかわったクラヴィア作品集(トリオや歌曲等も含まれていました)が出版されていますが、初期の何曲かの作品が故意に外されていて、ソナタは全34曲となっています。ベートーヴェンの全作品の中には、有名な32曲のソナタの他に作品番号無しのソナタやソナチネが数曲存在する、という事実を思い浮かべるべきでしょう。

さて、クラヴィアソナタに付きましては、前記の19世紀初頭の全集以後、3回に渡って全集が出版されています。

先ず、20世紀初めの、ブライトコップフ社の全集(旧全集)です。この全集は全体的に見れば種々の問題があり、僅か11巻が刊行されただけで中断されてしまいましたが、クラヴィアソナタだけは、校訂責任者カルル・ペスラーの堅実な仕事が幸いし、3巻全52曲の出版がなされていて、その番号はそのままホーボーケンの番号に用いられています。しかしながら、やはり上記34曲以外の作品の中には、問題作も含まれていますし、曲順も作曲順を正しくうつしたものではありません。

さて、戦後になりましてから、ウィーン原典版とハイドン新全集版が相次いで刊行されました。旧全集版以降に新たに発見された曲も、新たに判明した曲も(別種の作品と考えられていたけれども、検証の結果、クラヴィアソナタであると判断された作品)ありますので、ウィーン原典版では、62番までの番号を、独自の判断で作曲順に並べています(その際、ハイドンの時代のカタログに掲載されているものの曲自体は消息不明の作品7曲も番号に加えています)。この番号付けには何らかの根拠はあるのでしょうが、曲調だけを見た限りでは、とても作曲順に並べられているとは信じられない状況になっています。

もう一つの新全集版では、全54曲(1部分が消失している曲が1曲含まれています)を掲載し、付録という形でその他の断片楽章や消失作品のテーマ(カタログに冒頭部分のみ書かれています)を掲載しています。重要な点は、全曲の曲順を決定することをせずに、初期の作品は通常のソナタと小ソナタ(これが上記の初心の生徒のための作品にあたると考えられます)に分類し、それぞれを別々に作曲順を推定して並べていますし、中期以降の作品は原則として出版順に並べています。

この新全集版の方針は、大変見事な見識と思います。初期の作品では、作曲年代が確定できる作品はほとんど無く、うっかりすると真作かどうかもあやしい状態ですので、新資料でも見つからない限り、曲順を決める事自体が不可能な事と思いますし、中期以降では、その話とは別に、作曲年代と出版年のかなり違う作品があるのですが、ハイドン側に発表を見合わせていた事情があると考えるべきと思うからです。

ここでは、曲順は原則として新全集版を採用いたします。そして、新全集版では掲載されていない問題作4曲は、相当と考えられる位置に挿入いたします。作品の真偽に問題がある作品がかなりありますので、番号の前に以下の記号を付けることにいたします。

 

◎:自筆譜が残されているなど、問題なく真作と判断出来る曲

○:はっきりした証拠は無いものの、真作に疑いが無いと判断出来る曲

●:私の個人的な判断として、疑問のある曲

△:新全集版で、真偽に対する疑問が明記されている曲

×:新全集版では偽作として掲載されていない曲

 

番号は先にホーボーケンの番号(すなわち原則としては旧全集版の番号ですが、派生番号([括弧]を付けて表示します)も含まれます)、その後に(括弧)付きでウィーン原典版の番号を記し、調性を書いた後に、このサイトでしか通用しませんが、通し番号を付ける事にしました。なお、ウィーン原典版で番号の付いていない作品は(番外)と記入いたしました。

形式

ここでも、原則としましては、大ソナタ、中ソナタ、小ソナタ、バロックソナタという分類にいたしますが、あまりにも小じんまりした形式の場合、特にソナチネ形式と書く事にいたします。

作曲年・出版年

上記いたしましたように、作曲年を決める事が出来ない曲が含まれますので、原則として資料で確定できる曲は括弧無し、ほぼ間違いなく推定出来る曲は[括弧]付きで記入し、他はブランクといたします。また、出版年が判明している曲は、そちらも記入いたしました。

区分

こちらは、曲調から判断いたしましたので、必ずしも年代的には一致しないケースが含まれます。

その他

その他の項目に付きましては、交響曲の部屋の説明を参照して下さい。