交響曲の部屋第4室

BGM/Haydn Symphony No.90 1st mov.

第80番ニ短調

Fl. Fg. Hr. Cemb.
1 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4 Allegro spiritoso F,D 中ソナタ
2 2/2 Adagio 中ソナタ
3 3/4 Menuetto メヌエット
4 2/4 Presto 中ソナタ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
[1783] (81) 冒頭は悲劇的な音楽が始まりそうだが、その後見事にはぐらかされる。全体的には諧謔的な軽さを備えた作品。しかし、そのためにかなり誤解を受けて、批評家の評判の良くない作品とも言える。

第81番ト長調

Fl. Fg. Hr. Cemb.
1 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Vivace 中ソナタ
2 6/8 Andante 3部形式風の変奏曲
3 3/4 Menuetto Allegretto メヌエット
4 2/2 Allegro,ma non troppo 中ソナタ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
[1783] (81) 魅力的な瞬間が多いのだが、全体の印象は散漫。2楽章の美しさは比類がない。

第82番ハ長調「熊」

Fl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb. Solo
1 2 2 2 不要 管の短いソロが多い
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4 Vivace 大ソナタ
2 2/4 Allegretto f 変奏曲風ロンド形式
3 3/4 Menuet メヌエット
4 2/4 Vivace 大ソナタ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1786 89 注釈参照
注釈

82番〜87番の6曲は「パリ交響曲」と呼ばれています。由来は、パリに居を持つ演奏団体「ル・コンセール・ドゥ・ラ・ロージュ・オランピック」とその後援者の一人ドーニ伯爵の依頼で書かれた作品だからです。ロージュ・オランピックは、規模においても、演奏技術的にも、当時世界一と言って差し支えないオーケストラで、フル編成では100人に迫るという話が伝わっていて、今日の大オーケストラに十分匹敵します。なお、この時期、作曲家ケルビーニがこのオーケストラに席を置いていたことが知られています。

「パリ交響曲」の大きな特徴は大オーケストラを駆使した演奏効果に十分な配慮をみせている点で、以前の室内楽的な処理に重点を置いた作品とは明らかに異なります。93番以降のザロモン交響曲よりも、むしろこちらの方が直接ベートーヴェンとの接点になっていると感じますが、ザロモンのオーケストラよりもロージュ・オランピックの方が明らかに規模が大きいからでしょう。

82番「熊」はトランペット、ティンパニを加えた「祝祭交響曲」で、文句無く大傑作なのですが、ドミソを基調とした当時の聴衆の好みを考慮したメロディが逆に古めかしい感覚を起こさせるので、おすすめランクはBにしてあります。

ニックネームの「熊」は4楽章に現れるドローン効果の持続音(バグパイプ等で使われています)が、熊の唸り声を思わせるところから来ています。


第83番ト短調「めんどり」

Fl. Fg. Hr. Cemb.
1 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Allegro spiritoso 大ソナタ
2 3/4 Andante Es 中ソナタ
3 3/4 Menuet Allegretto メヌエット
4 12/8 Vivace 中ソナタ、曲調はジーグ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1785 86 タイトルは1楽章第2主題がめんどりの鳴く様子を連想させることから付けられた。この曲も80番と同様、冒頭が悲劇的な音楽に聞こえるのに、全体的には明るさに満ちている。

第84番変ホ長調

Fl. Fg. Hr. Cemb.
1 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4
2/2
Largo
Allegro
Es 序奏付き大ソナタ
2 6/8 Andate 変奏曲
3 3/4 Menuet Allegretto Es Es メヌエット
4 2/4 Vivace Es 大ソナタ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1786 87 曲全体は流れるようなテーマに特徴がある。いろいろな実験がみられるが、2楽章でいきなり第一変奏が短調になっているのには驚かされる。

第85番変ロ長調「王妃」

Fl. Fg. Hr. Cemb.
1 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/2
3/4
Adagio
Vivace
序奏付き大ソナタ
2 2/2 Romance Allegretto Es es 変奏曲
フランス古謡「若く気立てのよいリゼット」の主題による
3 3/4 Menuetto Allegretto メヌエット
4 2/4 Presto ロンド風カプリチォ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
[1785] 86 「王妃」の名前は、当時の王妃マリー・アントワネットが特にこの曲を好んだ事が由来で、既に初版の楽譜に「フランス王妃の」と記されている。

第86番ニ長調

Fl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb.
1 2 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4
4/4
Adagio
Allegro spiritoso
序奏付き大ソナタ
2 3/4 Capriccio Largo カプリチォ
3 3/4 Menuet Allegretto メヌエット、通常よりも長い
4 4/4 Allegro con spirito 大ソナタ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1786 88 規模が大きい作品。少々冗長に感じる部分がある。
注釈

ハイドンにおけるカプリチォは、テーマをあたかもソナタの展開部のように展開、もしくは変容させながら繰り返していく、自由な変奏曲といった趣の形式を持っています。当時のパリの聴衆が1つのテーマが種々に変容していくさまに熱狂したことは、数々の資料が証明しています。これは聴衆をも含めた当時のパリの音楽界のレベルの高さを示していると考えられます。


第87番イ長調

Fl. Fg. Hr. Cemb.
1 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Vivace 大ソナタ
2 3/4 Adagio バロックソナタ
3 3/4 Menuet メヌエット
4 2/2 Vivace 大ソナタ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1785 84 この曲にはモーツァルトの影響が感じられる。2人がお互いに影響を与え合っていた事については良く言われるのだが、ハイドンの曲で、該当する作品は意外に少ない。

第88番ト長調「V字」

Fl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb. Solo
1 2 2 2 不要 Vc.
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4
2/4
Adagio
Allegro
序奏付き大ソナタ
2 3/4 Largo カプリチォ
Vc.ソロ
3 3/4 Menuetto Allegretto メヌエット
4 2/4 Allegro con spirito ロンド形式
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
[1787] 90 注釈参照
注釈

88番、89番の2曲は「トスト交響曲」と呼ばれます。トストというのは人名で、ハイドンが楽長を務めていたエステルハージの楽団に一時席を置いたバイオリン奏者でした。このトストが楽団をやめる時、ハイドンから弦楽4重奏曲と交響曲の権利を譲り受けました。これが6曲の「第1トスト4重奏曲」と2曲の「トスト交響曲」です。しかしこの後、約束の権利料が支払われなかったためにトラブルとなり、トスト事件と呼ばれることとなります。

「V字」のタイトルは、ロンドンのフォースター社からハイドンの交響曲選集の第2集が出版された時、アルファベットの文字が各曲に記号として付けられ、この曲が「V」であったということです。しかしこの曲だけが殊更この記号で呼ばれているのは、「V」のイメージと曲のイメージがマッチしているからと考えるべきでしょう。

この曲はハイドンの交響曲では緩徐楽章にトランペットとティンパニが用いられた最初の例になります。以前にはモーツァルトの「リンツ」の例があります。この曲ではそれを一層効果的にするために1楽章ではトランペットとティンパニを敢えて使っていません。

全くの私見ですが、この2曲はシューベルトを予見させる音楽になっていると思います。


第89番ヘ長調

Fl. Fg. Hr. Cemb.
1 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Vivace 大ソナタ
2 6/8 Andante con moto 3部形式
3 3/4 Menuet Allegretto メヌエット
4 2/4 Vivace assai B,f ロンド形式
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1787 91 管楽器の用法が一段と進んでいる。なおこの曲の2,4楽章はリラ・オルガニザータ協奏曲の第5番より転用されている。

第90番ハ長調

Fl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb.
1 2 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4 Adagio
Allegro assai
序奏付き大ソナタ
2 2/4 Andante f 2つの主題を持つ変奏曲
3 3/4 Menuet メヌエット
4 2/4 Allegro assai 単一主題のソナタ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1788 92 とにかく印象に残るメロディを持っているので、だれにでもお勧めできる。
注釈

90番、91番、92番の3曲は「ドーニ交響曲」と呼ばれています。もちろん「パリ交響曲」の実質的依頼者のドーニ伯爵のことで、この3曲は大好評を博した「パリ交響曲」の続編として依頼され、作曲されたものです。この3曲の方をを特に「ドーニ交響曲」と呼ぶのは、この3曲が伯爵に献呈されているからです。ただこの3曲は、時を同じくしてハイドンに交響曲の作曲を依頼したエルンスト侯爵のもとにも送られたことが判明しています。いかなる事情が有ったとしても、この場合は、ハイドンの側に道義的な疑問があるでしょう。

この3曲はどれも1楽章に序奏が付いていますが、その序奏のフレーズが第1主題と関連しているのが、今まで見られなかった点です。


第91番変ホ長調

Fl. Fg. Hr. Cemb.
1 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4 Largo
Allegro assai
Es 序奏付き大ソナタ
2 2/4 Andante 3部形式風の変奏曲
3 3/4 Menuet Un poco Allegretto Es Es メヌエット
4 2/2 Vivace Es 単一主題のソナタ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1788 93 この曲も親しみやすいメロディを持っている

第92番ト長調「オックスフォード」

Fl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb.
1 2 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4 Adagio
Allegro spiritoso
序奏付き中ソナタ
2 2/4 Adagio 3部形式
3 3/4 Menuet Allegretto メヌエット
4 2/4 Presto 大ソナタ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1789 94 全体的には軽快でしゃれた感じの音楽。

協奏交響曲変ロ長調

Fl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb. Solo
1 2(3) 2 2 不要 Ob.Fg.Vn.Vc.
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Allegro 協奏曲ソナタ形式
2 6/8 Andante 2部形式
3 2/4 Allegro con spirito ロンド形式
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1792 100 注釈参照
注釈

この作品は、ハイドンの第一回の渡英中に書かれました。すなわち93番〜98番の第一期ザロモン交響曲と同じ時の作品となります。作品の成立の事情は明らかで、ザロモンの率いるオーケストラのライバル団体の「プロフェッショナル・コンサート」がハイドンの弟子にあたるプレイエルを招いて、その作品協奏交響曲で評判を取っていたので、対抗上ザロモンがハイドンに書くことを強く勧めたということで間違いありません。こうしてハイドンの作品としては唯一の協奏交響曲が成立しました。作品は非常に緻密に書かれていることと、ソリストに要求されるテクニックが思いの他高度であることが特徴となっています。そのためにソリストの名人芸が十分に堪能できる作品となっています。

なお、ソロは、オーケストラとは独立して演奏される形と、オーケストラに含まれる形と、どちらでも可能なように配慮されています。

余談になりますが、ロンドンで再会したハイドンとプレイエルは、一部のイギリス人(特に当時世界一と言ってよいマスコミ関係)が期待したような骨肉の争いを演ずることはなく、旧交をあたため非常に親密な交際をしたということです。


第93番ニ長調

Fl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb.
2 2 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4 Adagio
Allegro assai
序奏付き大ソナタ
2 2/2 Largo cantabile カプリチォ
開始が弦楽四重奏等数々の遊びが見られる
3 3/4 Menuetto Allegro メヌエット
4 2/4 Presto ma non troppo 自由な構成
ロンドソナタとカプリチォのミックス。
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1791 97 旋律そのものよりも、和音進行、転調、遊びを取り入れた構成等に大きな魅力がある。
注釈

93番〜98番は「第1期ザロモン交響曲」です。ザロモンはバイオリン奏者で同時にロンドンを拠点にオーケストラの主催者、演奏会の企画者をしていた人物です。ザロモンはハイドンの交響曲をメインとしたコンサートシリーズを企画し、わざわざウィーンまでハイドンを口説きに来ます。丁度ハイドンも長年務めたニコラウス・エステルハージ侯爵が亡くなり、後を継いだアントン・エステルハージ侯爵があまり音楽に熱心でなかったため(ハイドン自身は長年の功績を認められ多額の年金を贈られていたのですが、果たすべき仕事がほとんど無くなってしまった状態でした)、新たな活動の場を模索していたところで、渡りに船でうまく話がまとまることになりました。

このコンサートは交響曲がメインですので、ハイドン自身も交響曲の創作に大変に力を入れることになります。それ以前の十数年はむしろオペラやその他の劇場音楽に力を注いでいたので、この創作態度の変化は如実に作品に反映されています。

ただ、ここで注意しなければならないことは、第2期も含め12曲+協奏交響曲はイギリスで演奏されるために作曲されたという点です。つまり、どちらかと言うと保守好みで、前衛的な物を好まないが、しゃれや遊びに対しては過剰に反応するイギリス人気質を考慮に入れた、微妙なさじ加減がなされているということです。ともすると、それまで最前線を歩いてきた前衛作曲家としてのハイドンの姿が後退してしまったような印象を受け、過去の手法ばかりを追い求めているように見えます。この点が今日のハイドン像を不当に歪めている面がなきにしもあらず、と思います。


第94番ト長調「驚愕」

Fl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb.
2 2 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4
6/8
Adagio
Vivace assai
序奏付き大ソナタ
2 2/4 Andante 変奏曲
3 3/4 Menuet Allegro molto メヌエット
4 2/4 Allegro di molto 大ソナタもしくはロンドソナタ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1791 98 注釈参照
注釈

この作品の副題に関する逸話(寝ている客を驚かせて起こそうとした)は、ずいぶん知れ渡っているでしょう。そしてそれがフィクションであることも大体知られるようになりました。この話は初演当時から言われていたらしく、おそらく当時世界一(良い意味でも悪い意味でも/憶測や作り話など日常茶飯事でした)と思われるロンドンのマスコミ(新聞)が出所でしょう。

ただ、ハイドンも聴衆に何か大きなインパクトを与えようという意図はあり、後からアイデアを思い付いて、大急ぎで楽譜を書き直した証拠が残っています。当時の常識では緩徐楽章ではトランペットとティンパニは休んでいるのが当たり前で、そう思っている聴衆は、いきなりフォルテで鳴り響くトランペットとティンパニにずいぶん驚かされたはずです。やはりフォルテの音量くらいでは当時の聴衆といえどもそう驚くはずがありませんが、不意を付かれた場合は、それほどの音量でなくともびっくりするのが普通でしょう。

4楽章では、展開部で2度に渡り第1主題が原調で登場します。本来のソナタ形式では、展開部では第1主題は調を変えて登場させて再現部との差別化を図るのが普通です。それを敢えて原調で提示させることによってロンドソナタやカプリチォの雰囲気を出す事に成功しています。ちょっと見逃されがちですが、見事な職人技だと思います。


第95番ハ短調

Fl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb. Solo
1 2 2 2 不要 Vc.
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/2 Allegro moderato Es 大ソナタ
2 6/8 Andante cantabile Es es 変奏曲
Vc.ソロ
3 3/4 Menuet メヌエット
トリオでVc.ソロ
4 2/2 Vivace G,c ロンドソナタ形式
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1791 96 対位法的な処理が目に付く。特に4楽章のフーガ的な展開は意表を突かれる。

第96番ニ長調「奇蹟」

Fl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb. Solo
2 2 2 2 不要 2Vn.管の短いソロも多い
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4 Adagio
Allegro
序奏付き大ソナタ
2 6/8 Andante 3部形式
コーダの部分で突如Vn.のソロが現れ、合奏協奏曲風の展開になる。
3 3/4 Menuetto Allegretto メヌエット
4 2/4 Vivace ロンドソナタ形式
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1791 95 注釈参照
注釈

「奇蹟」のタイトルは、この曲の初演時にシャンデリアが落下する事故があったけれども、奇跡的に犠牲者が出なかったという逸話から取られたものです。この話はいかにも作り話ではないかと思われるため、いろいろ研究家が調べたのですが、確かに事故があったことは判明しました。ところが、この曲の初演の時の話ではない事も同時に判明し、おそらく102番の交響曲の時であるというのが定説となっています。どういう理由で曲が入れ替わってしまったのかは、私には詮索する方法が無く、新たな研究報告が出ないかと思っているところです。この話も、当時のマスコミの勘違いもしくは憶測の記事が出所ではないかという疑いはあります。


第97番ハ長調

Fl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb.
2 2 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4 Adagio
Vivace
序奏付き大ソナタ
2 2/2 Adagio ma non troppo f 変奏曲
3 3/4 Menuetto Allegretto メヌエット
4 2/4 Presto assai カプリチォ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1792 101 3楽章で、本来ならばリピート記号ですますテーマの繰り返しを、リピートを使わず、オーケストレーションを少しずつ変化させて書いている
注釈

2楽章の途中で、Sul Ponticello(弦楽器で駒の部分を弾く特殊効果奏法。バルトークで有名/ただしハイドンのケースは、楽譜上は al ponticello という表記になっていて厳密には多少異なります)が使われているのは、特筆ものと思います。曲全体の印象は、曲の展開、特に対位法的な処理が見事です。

ハイドンの第1次の渡英は、1791年、1792年の2シーズンにまたがっていますが、97番、98番の2曲は最初のシーズンを消化した後、次のシーズンまでの期間に書かれています。この2曲は明らかに前の4曲とは作風の変化があります。簡単に言えば、より主題の展開及び対位法的な処理に意を注いでいます。これは1シーズン消化し、その間に感じたイギリス聴衆の嗜好を考慮に入れた結果であることは想像に難くありません。ハイドンが登場する直前までロンドンで第一の人気を保っていた作曲家が、ヘンデルであったこと(没後30年以上経過していたにもかかわらず)を思い起こすべきでしょう。


第98番変ロ長調

Fl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb. Solo
1 2 2 2 全体的には不要(注釈参照) Vn.
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/2 Adagio
Allegro
序奏付き大ソナタ
2 3/4 Adagio リート形式と変奏曲の両方の特徴を持っている
3 3/4 Menuet Allegro メヌエット
4 6/8 Presto
Moderato
大ソナタ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1792 99 注釈参照
注釈

この曲では、4楽章のコーダで突然モデラートにテンポダウンし、しかも終わる直前にチェンバロのソロ的なフレーズが登場します。ザロモンのコンサートシリーズを通して、ハイドンはピアノフォルテの前に座りオーケストラの指揮を取っていました。この部分はハイドン自身が突然ピアノフォルテを奏でるというサービス精神溢れる演出でしょう。これもイギリスの聴衆の心理を読んだ作戦と言えるでしょう。なお楽譜上はチェンバロと書かれています。

1楽章の序奏が、第1主題を短調でゆっくり演奏する形になっていることも、注目されます。


第99番変ホ長調

Fl. Cl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb.
2 2 2 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/2 Adagio
Vivace assai
Es 序奏付き大ソナタ
2 3/4 Adagio 中ソナタ
3 3/4 Menuet Allegretto Es メヌエット
各部はかなり長い
4 2/4 Vivace Es ロンドソナタ形式
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1793 102 注釈参照
注釈

99番から104番までは第2期ザロモン交響曲となります。こちらは第1期の後ウィーンに戻ったハイドンが、1年のインターバルを置いて再び渡英して2シーズンのコンサートシリーズを行なうことになりそのために作曲したものです。第1期と比較した場合の明らかな相違点は、転調進行と調の設定、及びテーマの展開方法が非常に大胆になっているということです。その意味ではこの曲の2楽章、メヌエットのトリオの調設定に注目するべきでしょう。また対位法的な展開にずいぶん意を注いでいます。それとは別に、聴衆の意表を突くような遊びを意識して取り入れていて、聞く者の注意をそらさせないように工夫しています。ただしこのような傾向は、以前「シュトゥルム・ウント・ドランク」期に見られた特徴で、もちろん今回の方が熟練し洗練されていると言うことは出来ますが、決して新奇なものではありません。

この辺の事情を考察いたしますと、以前の場合は、ハイドンの雇い主ニコラウス・エステルハージ侯爵は、ハイドンの音楽性に大変な理解を示していましたが、一般的には、必ずしも理解されていたとは言えなかったと考えられます。それはウィーン音楽芸術家協会に入会したいというハイドンの希望が、当初は拒否されたという逸話からも類推されます(実際に入会が承認されたのはイギリスから帰った後になります)。ところが、何時の間にか聴衆の方のレベルが、それを十分受け入れられるころまでアップしてきていて、その事をハイドン自身も第1期の渡英を通してしっかりと認識したということでしょう。ともかく「シュトゥルム・ウント・ドランク」期の精神が蘇った事は、音楽史上最も幸いな出来事の一つだったと言えるでしょう。


第100番ト長調「軍隊」

Fl. Cl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb. Solo Etc.
2 2 2 2 2 不要 管の短いソロ多い Tri.Cymb.G.C.
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/2 Adagio
Allegro
序奏付き大ソナタ
2 2/2 Allegretto 3部形式、打楽器群が活躍
3 3/4 Menuet Moderato メヌエット
主部がかなり長い
4 6/8 Presto 大ソナタ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1794 104 注釈参照
注釈

「軍隊」のタイトルの由来は明白で、当時軍楽隊でしか使われないと思われていた打楽器(大太鼓、シンバル、トライアングル)を登場させたからに他なりません。打楽器群は第2楽章で極めて印象的に扱われていて、さらに4楽章の後半でも使われています。このタイトルは初演当初から言われていたことは、資料で判明していますが、自筆楽譜が(この第2楽章の部分だけ)紛失していて、譜面にタイトルが書かれているかどうか(すなわちハイドン自身の命名であるのかどうか)を確認出来ません。

他にも管楽器のソロが目に付く作品で、短いながらファゴットの単独のソロやセカンドトランペットのファンファーレのソロ等は特筆すべきでしょう。


第101番ニ長調「時計」

Fl. Cl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb.
2 2 2 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4
6/8
Adagio
Presto

序奏付き大ソナタ
2 2/4 Andante 3部形式
3 3/4 Menuet Allegretto メヌエット
これもかなり長いのが目に付く
4 2/2 Vivace A,d ソナタ形式とロンド形式の融合形
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1793 103 注釈参照
注釈

この曲のタイトル「時計」は第2楽章の時計を思わせるリズムから付けられた、と一般的に言われています。おそらくその通りなのでしょう。しかし付け加えるに、第3楽章が後に音楽時計用の音楽に編曲された、という話があります。この「時計」のタイトルはかなり後になって付けられたのははっきりしていますので、こちらの逸話も多少なりとも関係があると思います。

曲の特徴としましては、相変わらず対位法的な部分に見るべきものが多く、4楽章で、一時的にフーガ的な展開になるのが目に付きます。


第102番変ロ長調

Fl. Cl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb. Solo
2 2 2 2 2 不要 Vc.
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/2 Largo
Vivace
序奏付き大ソナタ
2 3/4 Adagio 小ソナタ
提示部のリピート部分のオーケストレーションを変化させている
チェロのソロ有り
3 3/4 Menuet Allegro メヌエット
4 2/4 Presto ロンドソナタ形式
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1794 105 第2楽章のメロディが美しい。しかし全曲的にはメロディがどう変化していくかの方に重点が置かれていて、メロディそのものの印象は薄いと言わざるをえない。

第103番変ホ長調「太鼓連打」

Fl. Cl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb. Solo
2 2 2 2 2 不要 Vn.
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4
6/8
Adagio
Allegro con spirito
Es 序奏付き大ソナタ
2 2/4 Andante piu tosto Allegretto 2つの主題を持つ変奏曲
Vn.のソロ有り
3 3/4 Menuet Es Es メヌエット
4 2/2 Allegro con spirito Es 単一主題のソナタ形式
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1795 106 注釈参照
注釈

「太鼓連打」とはそのものずばり、ティンパニの連打打ちが特徴となっているからに他なりません。1楽章の冒頭にソロで現れる所から聞く人の耳に強烈な印象を与えます。元来ティンパニはトランペットと対に考えられていて、基本的には同じリズムで扱われているのが当時の常識でしたが、ここで各々全く独立した音楽という形が登場したことになります。もちろん冒頭だけの話ではなく、曲全体に渡って言えることです。

しかしながらこの曲の大きな特徴は、序奏の異様さにあります。ティンパニの後、低弦とファゴットでの同音ユニゾンは、ずっと時代が下ってストラヴィンスキーの「火の鳥」の冒頭のヒントになっているのではないかとさえ思えます。そして、序奏のフレーズがコーダの部分で再登場するのは明らかにベートーヴェンの「悲愴」のヒントになっています。

第4楽章のコーダの部分ではハイドン自身が改定していて、改定前の稿と両方が現存しています。


第104番ニ長調「ロンドン」

Fl. Cl. Fg. Hr. Trp. Timp. Cemb.
2 2 2 2 2 不要
楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4
2/2
Adagio
Allegro

序奏付き大ソナタ
2 2/4 Andante 3部形式的な変奏曲
3 3/4 Menuet
Allegro
メヌエット
4 2/2 Spiritoso 大ソナタ
作曲年 作曲順 区分 おすすめランク 特徴
1975 107 注釈参照
注釈

この曲の「ロンドン」というタイトルはどういうことでしょうか?ロンドンに関係する交響曲ということならば「ザロモン交響曲」12曲は全部その資格を備えることになります。しかし、この曲をよくよく眺めてみますと、今まで再三書きました主題の展開、対位法的処理、その他の優れた点は尽く備えているのに加えて、それよりも先ず第一に圧倒的な旋律的な魅力を備えていることがわかります。ゆえに、この作品がザロモン交響曲12中、いやむしろ全交響曲中最高作であるという大方の説に素直に肯かざるをえません。おそらく、これほどの作品に副題が付けられていないことを良しとしない気運から付けられたタイトルであろうと思われます。