解説
このアルバムでは、Rolandのポリフォニック・シンセサイザーJupiter-8が使用されています。Jupiter-8は、発売当時は名機の誉れ高い画期的なシンセサイザーで、現在でもソフトウェア・シンセサイザーという形でなら立派に現役で活躍しています。その、Jupiter-8で、どこまでオーケストラ・サウンドを再現出来るか、そしてその場合の録音の手順をどうすれば良いか、というある種の、研究、実験の目的ためにレコーディングしてみたものです。
最初に取り上げた曲は、1曲がそれほど長くなく、バラエティに富んでいる手頃な曲として、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」でした。録音の手順を考えてみると、最初にガイドとしてのメトロノーム音が必要になりますが、その目的のために、Rolandのリズム・コンポーザーTR-808を使用する事にしました。曲の拍子やテンポの変化を予めプログラムし、4チャンネルのMTRの1チャンネルに録音し、それに合わせて他の楽器音を録音していく方法を取りました。楽器音は、楽譜にある楽器ほとんど全部を自分でプログラムし、全てを手で弾いています。1部の打楽器音を省略してありますが、それ以外はオーケストラの全てのパートを録音しています。ホルン4本のユニゾンなんてケースも4本分の録音をしています。一方、弦楽器はストリングス・アンサンブル系の音色を作り、原則として1パート1回ずつ録音しています。ただし、ソロ(「白鳥の湖」で出てきます)は別の音色を用意して、別に録音しています。
「くるみ割り人形」は、録音の手順をいろいろ変えて実験していますが、成功した曲も失敗した曲もあります。失敗は、ノイズの処理が上手くいかなかったケース、音の歪が出てしまったケース、タイミングが取り難くてアンサンブルが乱れているケース、楽器音同士のバランスが変なケースなどがあります。
次に録音したのは、「白鳥の湖」です。こちらは1曲が長く複雑なので、いろいろ新しいテクニックを考えながら録音しました。「くるみ割り人形」で省略した打楽器音も何種類か作ってみました。
最初はこの2曲をテープの両面に入れるつもりでしたが、録音時間に意外に差があるため、それぞれを長さの違うテープの入れて、それぞれのB面用の曲をさらに録音する事にしました。そこで登場したのが「コーカサスの風景」と「ト短調交響曲」です。単純に好きな曲だったからという意味です。「コーカサスの風景」では、それまでメトロノーム音だけで使っていた、TR-808の打楽器音を使う事にしました。ト短調交響曲は、微妙なテンポの変化をプログラムしてみました。この辺は隠し味の以上の意味は無いでしょう。
こうして、2本のテープとして製作したものですが、CD化に当たっては、一連の作品として2枚組に収める事にいたしました。上記注意書きにも書きましたが、この作品については、実費以上の対価を求めるつもりはありません。商用目的の転載・二次使用でない限り、コピー・複製等自由にしていただいて構いません。