弦楽4重奏曲の部屋第3室

BGM/Haydn Sring Quartet No.45(37) C-dur Op.50-2 1st mov.

第37番(第31番)ロ短調作品33−1

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Allegro moderato 中ソナタ、単一主題に近い
2 3/4 Scherzando Allegro スケルツォ
3 6/8 Andante 中ソナタ
4 2/4 Presto 中ソナタ
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
1781 いきなりDの和音で始まり、驚かされる。緩徐楽章のアンダンテの指定は、弦楽4重奏曲では過去に見られないものである。
注釈

作品33の6曲は普通「ロシア4重奏曲」と呼ばれています。これは、出版譜にロシア大公に献呈された旨、注釈として書かれていたからです。時のロシア大公、後のロシア皇帝パウル1世は、この時丁度ウィーンを訪れていて、ハイドンとも接触があったと考えられていますが、詳細は推測の域を出ていません。ハイドンが大公に音楽の教授したとか、大公主催のハイドンの私的な演奏会が催されたとかいう説があります。

この6曲は、前作作品20の「太陽4重奏曲」から10年程の期間を経て作曲されました。この両作品の間には明らかな作風の変化が見られます。最大のポイントは、主題のモチーフを積み重ねるように展開させていくことに腐心していることでしょう。結果として、ソナタの第2主題が、第1主題と非常に近いものになっていますし、展開部がより拡大し、しかも展開部的な部分が他にも見られるようになっています。

他にメヌエットの代わりにスケルツォを採用している点、緩徐楽章のリピートを省略し、曲全体のまとまりに配慮している点、偽の再現部を用いる等、遊びが見られる点が目に付きます。

この作品がモーツァルトに大きな衝撃を与え、後にハイドンに献呈したことで、通称「ハイドン4重奏曲」と呼ばれている弦楽4重奏曲を作曲する原動力となった事は良く知られています。


第38番(第30番)変ホ長調作品33−2「冗談」

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Allegro moderato cantabile Es 中ソナタ
2 3/4 Scherzo Allegro Es Es スケルツォ
3 3/4 Largo sostenuto 自由な変奏曲
4 6/8 Presto Es As,B ロンド形式
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
1781 全体的に軽妙だが、ふざけた感じを持つ。標題は、直接的には終楽章の終わりの部分の過剰な休止から連想されたものと思うが、曲全体の雰囲気も同様の感覚がある。

第39番(第32番)ハ長調作品33−3「鳥」

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Allegro moderato 中ソナタ
2 3/4 Scherzando Allegretto スケルツォ
トリオはバイオリンのみ
3 3/4 Adagio 小ソナタ
展開部が極めて短い。リピートは無いが、前半は変奏されて繰返す。
4 2/4 Rondo Presto a,c ロンド形式、コーダ付き
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
1781 副題は、鳥のさえずりを思わせる装飾音の音形が全曲を支配していることから。一時的な短調が目立ち、変化・起伏に富んでいる。

第40番(第34番)変ロ長調作品33−4

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Allegro moderato 中ソナタ
2 3/4 Scherzo Allegretto スケルツォ
主部の曲調はメヌエット風
3 3/4 Largo Es ロンドソナタ形式、リピート無し
4 2/4 Presto Es,g ロンド形式
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
1781 随所に遊び心が見られる。4楽章の変奏や経過句を交えながら自由気ままに進行するロンドは、以後の作品で良く見られる。

第41番(第29番)ト長調作品33−5

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/4 Vivace assai 中ソナタ、コーダ付き
2 4/4 Largo cantabile 単純な3部形式、リピート無し
3 3/4 Scherzo Allegreto スケルツォ
4 6/8 Allegretto 変奏曲
曲調はシチリアーノに近い
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
1781 全曲的には、非常に軽妙且つ洒脱な音楽だが、2楽章の悲しげな美しさが好対照。1楽章のしゃれた導入部分、3楽章の変則リズム、ルネッサンス期の舞曲を思わせる4楽章と聞き所が多い。

第42番(第33番)ニ長調作品33−6

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 6/8 Vivace assai 中ソナタ
第1主題の再現が属調になっている。
2 4/4 Andante 単純な3部形式だが、テーマの再現の前に展開部的な部分を持つ
リピート無し
3 3/4 Scherzo Allegro スケルツォ
4 2/4 Allegretto 2つの主題を持つ変奏曲
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
1781 味わい深い作品だが、曲調を捉えにくい面がある。4楽章の2つの主題の変奏曲は、この後、ハイドンの得意の様式としてたびたび出現する。

第43番(第35番)ニ短調作品42

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/4 Andante ed Innocentemente 中ソナタ
2 3/4 Menuetto Allegretto メヌエット
3 2/2 Adagio e cantabile 単純な3部形式
4 2/4 Presto 中ソナタ
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
1785 全曲的に非常にコンパクトな作品。一見初期の作風に戻ったかの印象を受けるが、形式的には、より構造的になっている。

第44番(第36番)変ロ長調作品50−1

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/2 Allegro 中ソナタ
2 6/8 Adagio non lento Es es 変奏曲
3 3/4 Poco Allegretto メヌエット
表記はなく、トリオがスケルツォの雰囲気を持っている
4 2/4 Vivace 中ソナタ
第2主題がはっきりしなく、単一主題的。
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
[1787] 単純な4分音符の連打をリズムモチーフとして採用している1楽章の発想は非凡。4楽章が素晴らしい。
注釈

作品50の6曲は、プロシャ4重奏曲(プロシャ王4重奏曲)と呼ばれます。これは、出版された譜面に当時のプロイセン王フリードリヒ2世への献呈の辞が載せられた事によります。この曲の場合、実は、ハイドンは当初そのつもりは無かったのですが、出版社が、一存で「十字架上のキリストの七語」をプロシャ王に献呈しようとしたという事件があり、それを聞いたハイドンが、宗教的な作品を献呈するのは非常識であるとして、急遽この作品を献呈するように取り計らったということが資料でわかっています。

この作品集は、記念碑的な作品である「太陽」と「ロシア」、そして晩年の傑作群の狭間にあって、見過ごされがちな気がいたします。しかし、この作品の位置づけは、「太陽」と「ロシア」で獲得した書法の再確認と新たな実験という意味があり、言い方を変えれば、この2つの傑出した曲集のそれぞれの長所を融合した作品集ということが出来ます。それとは別に、ソナタ形式の第2主題の独立性及び、調性の選択において、さまざまな実験をしていて驚かされる部分が少なくありません。半音階的な転調進行が目立つ作品群とも言えるでしょう。惜しむらくは、そのために聞く人に難解な印象を与えてしまう事で、一見、見過ごされているように感じる理由はここにあると思います。


第45番(第37番)ハ長調作品50−2

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4 Vivace 大ソナタ
2 4/4 Adagio Cantabile リート形式、リピート無し
3 3/4 Menuetto Allegretto メヌエット
4 2/4 Vivace assai 大ソナタ
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
[1787] 非常にスケールの大きさを感じる作品、この時代として考えるならば、かなり大胆な転調進行が見られる。おそらく作品50では一番の傑作。

第46番(第38番)変ホ長調作品50−3

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 6/8 Allegro con brio Es 中ソナタ
2 2/4 Andante piu tosto Allegretto 自由な変奏曲
3 3/4 Menuetto Allegretto Es Es メヌエット
4 2/4 Presto Es 中ソナタ
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
1787 全曲的にチェロが活躍する作品。特に2楽章の旋律は際立っている。

第47番(第39番)嬰ヘ短調作品50−4

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4 Allegro spirituoso fis A,Fis 中ソナタ
2 2/4 Andante 2つのテーマを持つ変奏曲
3 3/4 Menuetto poco Allegretto Fis fis メヌエット
4 6/8 Fuga Allegro moderato fis フーガ
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
1787 注釈参照
注釈

この作品は、作品50の6曲の中では最も注目すべき作品で(最高作は2番のハ長調と思いますが、4番の方が印象的です)、短調の作品であることが信じられない程、明るく透明な感覚を持っています。全楽章が聞きものであると言えますが、特に、4楽章のフーガは、作品20の太陽4重奏曲のフーガ楽章とは異なり、厳格な書法を放棄して、ソナタ形式の要素を取り入れた問題作です。ベートーヴェンのフーガ楽章に直接的な影響を与えている可能性が大きいと思われます。


第48番(第40番)ヘ長調作品50−5

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/4 Allegro moderato 中ソナタ
2 3/4 Poco Adagio バロックソナタ
3 3/4 Menuetto Allegretto メヌエット
4 6/8 Vivace 中ソナタ
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
1787 単純明快な旋律を持っている。2楽章に「夢(Ein Traum)」とタイトルが付けられた楽譜が存在する。

第49番(第41番)ニ長調作品50−6「蛙」

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Allegro 中ソナタ
2 6/8 Poco Adagio F,D 単一主題のソナタ
後半リピート無し
3 3/4 Menuetto Allegretto メヌエット
4 2/4 Allegro con spirito 中ソナタ
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
1787 副題は、4楽章の冒頭の音形が蛙の鳴き声を思わせるから。全体的な印象は軽快。第2楽章は一見悲痛な旋律で始まるが、同じモチーフが第2主題の代わりに明るい長調で奏されるのが痛快。

第50〜56番(編作)作品51「十字架上のキリストの七語」弦楽4重奏版

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
序曲 4/4 Maestoso ed Adagio 小ソナタ、リピート無し
1 3/4 Largo 中ソナタ、リピート無し
2 4/4 Grave e cantabile Es,C 単一主題の小ソナタ
後半リピート無し
3 4/4 Grave 小ソナタ
後半リピート無し
4 3/4 Largo As 小ソナタ
後半リピート無し
5 4/4 Adagio 中ソナタ
後半リピート無し
6 4/4 Lento B,G 中ソナタ
展開部と再現部が融合している。後半リピート無し
7 3/4 Largo Es 中ソナタ
後半リピート無し
地震 3/4 Presto e con tutta la forza Es 概ね3部形式に近い
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
[1787] 注釈参照
注釈

この作品は、元々はハイドン唯一の管弦楽曲で、スペインの港町カディスの司祭、ホセ・サルーズ・デ・サンタマリア博士の依頼によるものです。カディスの大聖堂では、毎年、四旬節のミサで、キリストの最後の七語に関する説教を音楽付きで執り行なうという習慣があり、その音楽を新たに世界最高の作曲家に依頼することになり、ハイドンに依頼が舞い込んだものです。その儀式では、司祭がキリストの受難の場面を語り、そのクライマックスで七語を一節ずつ語りそれに注釈を加え、それに対応する音楽を奏する、という形になっていました。作曲されたのは1785年と推測されています。ハイドンは後に、緩徐楽章ばかり7曲も、音楽にあまり造詣の無い民衆でも聞けるように作曲するのは大変に困難であったと語っていますが、出来上がった作品は、非常に素晴らしく、ハイドン自身にとっても大変な自信作となりました。そして、カディアスのみでなく、広く演奏されるべく弦楽4重奏に編曲し出版するということになり、書かれたのが弦楽4重奏版です。同時にピアノ編曲版も、別人が編曲し、ハイドンが校正するという形で出版されました。実際、当時としては大ベストセラーと言って良いほど売れ、ヨーロッパ全土のあらゆるカトリック教会で演奏されました。さらに後になって、オラトリオ版も書かれました。

曲は、7語に対する遅いテンポの7つのソナタに、荘厳な序奏、地震と題された(キリスト昇天後に地震があったという言い伝えによります)終曲を加えた9曲の構成となっています。何と言っても、緩徐楽章ばかりですので、聞き手を選ぶ作品であることは確実で、誰にでもおすすめという訳にはいかないと思いますが、どの楽章も大変に素晴らしい音楽となっています。


第57番(第42番)ハ長調作品54−2

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Vivace 大ソナタ
2 3/4 Adagio 単純なリート形式
3楽章に続く
3 3/4 Menuetto Allegretto メヌエット
4 2/4 Adagio
Presto
Adagio
特殊な形式
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
[1788] 注釈参照
注釈

作品54と55の6曲は、「第1トスト4重奏曲」と呼ばれています。このトストと言うのは「トスト交響曲」の項でご説明いたしました人物と同一人物ですので、詳しい説明はそちらを参照して下さい。

出版の時に3曲ずつ分けて出版されましたので、作品番号も分けられています。ただ、作品54と55を個別に「第1トスト」「第2トスト」と呼ぶケースがありますので(この場合作品64の「第2トスト4重奏曲」を「第3」と呼ぶことになります)、注意が必要です。

この曲集から、ハイドンの円熟期の作品と考えることが出来ますが、大きな特徴は、これまでの曲集で行なってきた実験が、最早実験としてではなく、重要な表現の手段として用いられているということでしょう。表面上はあくまでも明快、しかしながら、気のおもむくまま如何様にも変化し得る、という遊び心を備えた世界は、はなはだ痛快です。

作品54−1の終楽章の形式について、一言触れる必要があると思います。先ず出だしが、序奏のようなアダージォで始まり、それが朗々といつまでも気持ち良さそうに続いてしまいます。かなり行ってから、ふと気が付いたようにロンド風のプレストのテーマが登場します。しかし、もしもロンドならば、次のテーマが始まるべき部分で、もう一度アダージォが登場し、そのまま終わってしまいます。一見バロックのフランス風序曲を思わせますが、精神的には全く異なった音楽で、聞く人の予想の裏をかいて楽しんでいるような趣があります。


第58番(第43番)ト長調作品54−1

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 4/4 Allegro con brio 中ソナタ
2 6/8 Allegretto 中ソナタ、リピート無し
3 3/4 Menuetto Allegretto メヌエット
4 2/4 Presto g,h カプリチォ
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
[1788] 全曲を通して非常に楽しめる作品。特に4楽章が、面白い。ハイドンにおけるカプリチォは、通常の名称とは別に、一種の形式を表している。テーマを自由に変奏したり、繰返したり、寄り道したりしながら進んでいくスタイルを持っていて、次に何が出て来るかと、わくわくしながら聞く楽しみがある。

第59番(第44番)ホ長調作品54−3

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/2 Allegro 中ソナタ
2 3/4 Largo cantabile 3部形式
3 3/4 Menuetto Allegretto メヌエット
4 2/4 Presto 中ソナタ
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
[1788] 1楽章と4楽章がとても楽しめる作品。2楽章が少々長いという気がする。

第60番(第45番)イ長調作品55−1

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/2 Allegro 中ソナタ
2 2/4 Adagio cantabile 単一主題のソナタ
展開部を欠く
3 3/4 Menuetto メヌエット
4 2/2 Vivace 3部形式
中間にフーガ的な展開を含む
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
[1788] 明るく軽妙。疾走感のある部分と休止とが交錯し、スリリングな音楽になっている。

第61番(第46番)ヘ短調作品55−2「剃刀」

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 2/4 Andante piu tosto Allegretto 2つの主題を持つ変奏曲
2 2/2 Allegro As 単一主題の中ソナタ
展開部から再現部にかけてフーガ的展開
3 3/4 Menuetto Allegretto メヌエット
主部の前半リピート無し
4 6/8 Presto 単一楽章の中ソナタ
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
[1788] 全体が隙き無く作られているという意味で文句のつけようの無い作品。1楽章が秀逸。
注釈

この作品のタイトルは、イギリスの楽譜出版商ブランドという人物が、商談でハイドンを訪れた際、丁度髭を剃っていたハイドンが、剃刀の剃り味が悪いとこぼしたので、持ち合わせた剃刀を進呈し、お礼として受け取った作品であるという逸話から来ています。しかし、それを裏付けられるだけの事実の確認は出来なく、おそらく作り話であろうとされています。それよりも、この作品は非常に切れ味が鋭い、という表現が当てはまらなくはないと思うのですが、案外こんな所が出所なのかも知れません。


第62番(第47番)変ロ長調作品55−3

楽章 拍子 速度記号 調性1 調性2 形式
1 3/4 Vivace assai 中ソナタ
2 2/4 Adagio ma non troppo Es 変奏曲
3 3/4 Menuetto メヌエット
4 6/8 Presto 中ソナタ
作曲年 区分 おすすめランク 特徴
[1788] かなり半音階的な進行が目立ち、その分だけくすんだ色合いの曲になっている。なかなか味わい深い作品。